FASHION ILLUSTRATION

ファションイラストレーション Lesson 1
「入賞したデザイン画からひも解く、デザイン画の考え方と描き方」
岡本あづさ (イラストレーター・デザイン画講師)

はじめに

広い会場一面に並んだデザイン画を見ながら審査員がゆっくりと練り歩き、気になる1枚を見つけてはスタッフに手渡していく。プロとしてファッションに向き合う日々を過ごされているかたがたの目に狂いはないと思いつつ、審査の現場を見ていると、本当に1枚1枚のデザイン画がきちんと見られているのだろうかなどと、小さな猜疑心が沸いてくることもありました。懸命にデザイン画を描いている学生の姿を知っているからこその気持ちです。
今回、Tokyo 新人デザイナーファッション大賞(以下、ファッション大賞)事務局から「過去5年間に入賞したデザイン画を見て、今後ファッション大賞に挑戦しようと思っている学生達に、参考となるようなアドバイスをいただけませんか?」と提案されたことで、改めてその気持ちに対峙してみようと思いました。
ファッション大賞は学生をターゲットとした国内最大の応募数を誇るアワードですが、デザイン画1枚で応募できるアワードとしても貴重な存在です。なぜならファッションアワードの現在の状況からいうと、ITSや装苑賞のように、ポートフォリオでの応募が中心となっているからです。
そういった現状を考えあわせつつ、まずは1次審査を通過した25枚の5年間分となる計125枚を机に並べ、眺め、分類することから始めました。結果としてA~Eの5つの項目に分けることができました。まずはそれぞれの項目に沿ってお話ししていきたいと思います。

A.ポートフォリオの要素を入れ込む

最近は世界的なファッションアワードの多くがポートフォリオでの提出を基準にしています。ファッションデザインをするときに、その発想のベースにある素材の情報や、デザインのアイディアが形になるまでの途中経過などが、言語を超えて伝わるように具現化する能力が必要になってきているのです。そのため1枚のデザイン画にも、ポートフォリオ1冊が持つ要素を盛り込む必要が出てきたと言えるでしょう。

大切に選んだ素材を、添付してしっかり見せる

どういった素材を使うのか?そのことをしっかりと意識して描かれたデザイン画には説得力があります。添付された素材の特徴を知る事で、デザイン画を見た人はデザインをイメージし、描かれたフォルムが再現可能かどうかなどを知ることができるからです。審査を通過したデザイン画はただ添付しただけではないもう一工夫があります。
イメージぴったりの素材が手元にない状態で、デザイン発想に取り組む場合もあるでしょう。その場合でも、おおよその素材感をイメージして描かれたものはデザイン画に奥行きがあり自然と強さが増します。ただし情報量が多いことは審査員を立ち止まらせるきっかけにはなりますが、どこに一番注目してもらいたいかを考えて内容に強弱をつけていくことが大切なポイントになります。

2011 塚原達也(神戸ファッション専門学校・秀作賞)

2012 永田大祐(文化服装学院)

2015 水上誠二郎(文化ファッション大学院大学・優秀賞)

2015 櫻井拓美(文化ファッション大学院大学・秀作賞)

より発展させたリアルなサンプルを付ける

素材そのままをデザイン画に添付することから発展させて、デザインの一部を試作した立体的なサンプルや写真などを付けることも有効に感じます。
唯一無二の作品を作るために素材作りからスタートすることが多いのも、ここ数年の傾向です。オリジナル素材を作ったからにはその経緯を伝えたいと思うのでしょう。審査を通過したデザイン画の中には、発想から完成までを写真やイラストを使って、上手にレイアウトしているものが多く見受けられ熱量を感じます。
オリジナリティに富み非常に作り込んだ素材を時間をかけて発明することは、学生時代にしかできない経験といえるでしょう。素材作りやサンプル作りにかけた時間の積み重ねが、デザイン画に奥行きを与えているように感じます。

2015 篠崎祐太(東京モード学園)

2014 柏木 結(織田ファッション専門学校)

2013 石本 悠(大阪モード学園)

2014 淺野友行(名古屋ファッション専門学校)

2012 シン セイ ジャ(文化服装学院)

2013 小池俊介(セントラル・セント・マーチンズ・秀作賞)

2011 富原吏輝(杉野服飾大学・大賞)

2014 田中大資(大阪文化服装学院・秀作賞)

B.リアルに描かないことで想像させる

Aの多弁なデザイン画とは逆に、あまりリアルに説明しないというタイプも多く選ばれていることに、デザイン画審査の面白さを実感します。このタイプのデザイン画に共通しているのは、何とも言えないニュアンスを放っているということです。人すら描いていないミン ジョンウンさんのデザイン画からは、何とも言えない雰囲気を感じることができませんか?
究極の表現方法ですが、これがファッションの面白いところなのだと思います。作者の中には漠然とではあるけれど大きなひとつのイメージがあり、そのイメージが持つエッセンシャルな部分を抽出して描くことで、見る者の想像を掻き立てていくわけです。2014年に大賞を受賞した杉本知春さんが「“生地こねくりまくり合戦”みたいなコンテストの流れに一石を投じたいと思った」(アマチュア特設サイトのインタビューから)と言っているように、何かを変えたい、伝えたいと思う情熱はデザイン画を通して審査員に伝わるように思います。テーマとなる“カイジュウ”という言葉の描き方も絶妙で、トータルな世界観が見る者に強いインパクトを残します。

2014 杉本知春(大阪文化服装学院・大賞)

2015 水町孝浩(マロニエファッションデザイン専門学校・秀作賞)

2013 ミン ジョンウン(DIAF・秀作賞)

2014 水町孝浩(マロニエファッションデザイン専門学校)

2011 阿部 優(国際ビューティ・ファッション専門学校)

2015 山田龍之介(文化服装学院)

C.あえて、全身を描かない

Bの続きとも言えますが、限られたスペースを最大限に活用するためには、どこにフォーカスしていくべきかを考える必要があります。全身を描く必要のないデザインならば、思いきり膝から上にフォーカスしてもいいでしょう。Nattida Chamnongslipさんのように上半身にフォーカスしながらデフォルメした描きかたをすると、服が意志を持った有機的な存在に感じられて、見る者に印象づけます。

2015 大河原麻央(上田安子服飾専門学校)

2013 Nattida Chamnongsilp(エスモードジャポン)

2013 大橋聖平(大阪文化服装学院・大賞)

2015 横田 匠(文化服装学院・秀作賞)

D.ベースとなる紙もデザイン画の大切な一部

紙も布と同じくらい選択の幅があります。白い紙といっても様々な質感がありますから、醸し出したいイメージを最大限に生かす紙を選ぶようにしましょう。
白やグレーの布地を使ってデザインする場合は、ベースに黒い紙を選んで白で描くという方法もいいと思います。新原 斉さんは別の紙に描いたデザイン画を切り抜いて、黒い紙に貼るというひと手間かけた仕上げにしています。それだけでも平面から立体に一歩近づいた雰囲気が出ます。中田優也さんも同様に切り抜いたデザイン画を貼っていますが、黒い紙にあらかじめペイントを施しているのが面白い表現となっています。

2015 イ チャンウ(東京モード学園・秀作賞)

2011 新原 斉(大阪モード学園)

2011 中田優也(文化ファッション大学院大学)

2013 梅垣恵里(大阪モード学園)

2014 金森麻衣(愛知文化服装学院専門学校)

2014 川又宣興(大阪モード学園)

2015 金山恒樹(マロニエファッションデザイン専門学校)

2015 清水かな江(ディーズファッション専門学校)

E.個性的で絵が上手。けれど、それだけでない何かがある

絵が上手なだけでなく「あの人の絵」と分かるような、すでに世界感を確立しているデザイン画もあります。けれどよく見ていくと、画力だけではない裏付けがあることが分かります。これらのデザイン画を描いた作者は、使う布地の素材感や服として仕上げるときのテクニックなどをすでに分かっているからこそ、もともとある画力を使ってそれを描いているのです。オロスコ マリアさんは厚いフェルト素材を使って実物制作をしていましたが、この素材が持つ特徴や形づくるラインをよく知った上でデザイン画に落とし込んでいます。
2012年の大賞受賞者である黄寅さんのデザイン画も、使用したレザーの質感やムードを上手に表現しています。黄さんはこのデザイン画の他にも、沢山のヴァリエーションを描いて応募していました。デザインのテーマや主旨が明解だったからこそ、沢山のヴァリエーションを描くことができたと言えます。

2014 オロスコ マリア(大阪モード学園・秀作賞)

2011 菊谷 彩(エスモードジャポン)

2011 秋葉裕嗣(文化ファッション大学院大学)

2012 黄 寅(文化服装学院・大賞)

2012 前田晃佑(文化服装学院)

2013 ジョン オンヒ(Hong-ik University)

2013 藤本真実(上田安子服飾専門学校・秀作賞)

最後に

入賞したデザイン画を分類して解説していく中で、沢山のことを感じました。今回選ばれたデザイン画を見ると、やはりそれぞれに説得力があります。
沢山のデザイン画から審査員に選んでもらうためには「インパクトが大切!」という言葉をよく耳にします。そのインパクトとはいったいどういうことを指すのかが問題です。カラフルな色使い、大胆に描かれた線、丁寧に張り付けられた素材やサンプルなども、もちろんインパクトを大きくすることに役立つでしょう。けれど本当に大切なのは、デザイン画全体から醸し出される雰囲気と、可能性を感じさせる何かがあるかどうかなのだと思います。その雰囲気や可能性は何によって支えられているかというと、作者の素材に対しての知識や愛着、目指す世界感、その世界感への探求心ではないでしょうか。アワードに挑戦し続ける気持ちも、とても大事なことだと思います。

2015年の審査会風景。デザイン画は丁寧に机の上に並べられて。

TOKYO 新人デザイナーファッション大賞 アマチュア部門 作品募集中!

今年度のデザイン画締切りは、6月24日(金)17時必着です。
応募に関する詳しい情報はこちらまで。

PROFILE

岡本あづさ Adusa Okamoto

文化服装学院アパレルデザイン科卒業。在学3年次に第1回イヴ・サンローラン賞受賞。 文化服装学院に教職として就職。数年で退職後イラストレーターとしてフリーランスとなる。 以後、文化学園大学、短大、BFGU、学院の非常勤講師、イラストレーター、ユニフォームイラストレーターとして活動。
2001年から個展を開催。 2013年に毎日1枚ファッションイラストをFBにUP。作品を『FACE BOOK 365+1』として麻布、学園リソースセンター、京都と巡回展を開催。

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